現代では、誰もがインターネットを日常的に使用し、SNSを含む多様なメディアを通して多くの情報を収集しています。こうした社会では、従来の営業や宣伝活動を続けていても、うまく顧客を確保したりつなぎとめたりすることができなくなってきました。
多くの企業経営者や広報担当者たちは、こうした状況でも着実に顧客を取り込んでいくためにはどうしたらよいのかと、頭を悩ませてきました。そこで注目されているのがマーケティング施策の実行です。実際に今日では、多種多様な企業がマーケティングを積極的に展開しはじめており、建設業界も決して例外ではありません。
本記事では、建設業でおこなうマーケティングについて、基本的な特徴から実践時の注意点まで詳しく解説します。もっとも代表的なマーケティングの2手法も紹介します。
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目次
建設業にマーケティングが必要な理由
マーケティングをおこなう目的は、新規顧客とリピーターの獲得です。しかし業種の違いや個々の企業によっても、マーケティングの実践方法はさまざまです。商品やサービスの違い、各企業の問題点、目標・顧客層の違いなど多くの要素が影響し、マーケティングの手法が変わってくるからです。そのため、建設業界における効果的なマーケティング手法やコツを把握するには、まずは建設業界の問題点を理解する必要があるでしょう。
建設業界で長く問題視されているものに、「重層下請構造」があります。これは、元請企業がいくつかの下請企業へと発注すると、その下請企業もさらに別企業へ下請けさせるという構造です。
この構造では、二次請け・三次請けに回った建設業者が実際の施工業務をおこなうことになります。当然、元請企業から中間業者を挟むほど、そうした実務を担う建設業者への対価は減少します。同時に、「元請けからの情報が正しく共有されず、責任の所在も不明確になり、施工の品質に問題が生じる」といった恐れも高くなるでしょう。
このような環境に置かれた建設業者では、施工品質の低下が起きやすくなり、顧客も離れやすくなってしまうのです。
建設業界には、大きく分けて「土木・建築・躯体・仕上げ・設備」などの業種があり、躯体であれば大工のほかにも、とび・土工、鋼構造物、鉄筋などさらに細かく分かれています。そのため、重層下請が発生しやすい環境にあると言えるでしょう。実際、2016年時点で国土交通省が直々に、建設業界に的を絞った重層下請構造問題と解決策について詳しいレポートを作成しています。この構造は、国内の建設業界全体で解決を目指すべき課題となってきていると言えるでしょう。
実務を担う建設業者が上記のような構造から抜け出すには、元請企業に頼り切った経営状態からの脱却を目指さねばなりません。つまり「自社で新規開拓をおこない、新規顧客やリピーターを確保すること」が必要です。そこでカギとなるのがマーケティング施策であることから、近年、多くの建設会社が自社に適したマーケティング手法を模索・実行しています。
参考:国土交通省
建設業のマーケティングを成功させるには
では具体的に、建設業者はどのような活動をマーケティングとしておこなえばよいのでしょうか。
マーケティングをおこなうにあたって重要なことは、新しいビジネスをおこなう時と同様に、まず自社のターゲットを見定めることです。「当社は何が得意で、その強みによってどんな顧客を引き付けたいのか」という点を明確化し、最適な顧客にアプローチします。その場合、顧客層にアピールしやすい媒体の選択も重要です。
そうした基礎を押さえつつ、建設業者として自社のターゲットを見定めるための効果的な2つのマーケティング手法をご紹介します。そのうえで「ターゲットの絞り込み」「媒体選択」についても解説します。
3C分析とSWOT分析を利用する
建設業で代表的なマーケティング手法として、「3C分析」と「SWOT分析」と呼ばれる手法があります。これらをおこなうことで自社を取り巻く環境や自社の現状を把握可能なため、最適なマーケティングをおこなうことができます。それぞれの特徴・目的・実践方法を解説します。
3C分析
3Cとは、「Customer(顧客)・Competitor(競合他社)・Company(自社)」の3つの頭文字を取った言葉です。この3Cは、自社マーケティングの全体的な方向性を定めるために実行されます。以下のように、顧客・競合他社・自社自身について分析し、どんなマーケティングをおこなうのが最適かを導いていく手法です。
・顧客
自社が提供可能なサービスについて、顧客ニーズを調べます。まずは自社の得意分野や、実績が豊富な施工内容を整理しましょう。そうした自社の強みを活かせる業務が、現在の市場内にどのくらい存在しているのかを明確化します。併せてその市場成長予測なども見ておくとよいでしょう。
また、実際の顧客がそうした業務を依頼する場合には、どんな完成形をイメージし、どんなルートで業者にアクセスしているのかも、併せて調べておきます。
・競合他社
主な競合他社の市場シェアなどを調べます。新規参入を試みている企業が多ければ、それらの影響によって起こりえる市場変化も予想しておきましょう。
公開されている資料などを基にして、可能な限り詳細に競合他社を調査しておくことが重要です。これら多くの競合から自社を差別化してアピールしていくことが、マーケティングの基本方針です。「競合が何をアピールして顧客を獲得しているのか・収益を得ているのか」から戦略を学びつつも、常に競合他社にはない「自社の強み」を打ち出す方法を考えましょう。新ビジネス・サービスプランの考案も差別化施策として有効です。
・自社
市場での自社の現状を調べます。多くの競合他社に対して、自社はどのくらいの競争力があるのかを、客観的に分析しましょう。
単純な市場シェアだけではなく、資材・機器の調達や人材確保における強みなどまで総合して、自社のポジションを見定めましょう。同時に、「自社はどのような建設業者として顧客へ認識されたいのか」という明確なビジョンを固めます。
顧客・競合他社の分析と並行して、自社の現状と理念を明確化することで、「自社の強み」がはっきりと認識できるでしょう。
SWOT分析
SWOTは、「Strength(強み)・Weakness(弱み)・ Opportunity(機会)・Threat(脅威)」の頭文字を合わせた造語です。大きくは、自社の持つプラス要因(強み)とマイナス要因(弱み)、社外環境についてプラス要因(機会)・マイナス要因(脅威)をそれぞれ見定めます。
SWOT分析は、マーケティングを含んだ経営戦略全般の決定方法として用いることも一般的で、上の図のように理解されています。横軸にSとW、縦軸にOとTを置きます。
横軸として、自社の内部環境におけるプラス要素Sとマイナス要素Wを置きます。Sつまり強みとは、自社の得意な分野や、顧客層へ向けて積極的にアピールすべき特徴などです。Wつまり弱みはその逆で、自社があまり得意でない分野や、競合他社と比較して不利な部分などです。強みはもちろん、弱みについても客観的にしっかりと把握することが重要でしょう。
たとえば強みとしては「未だ市場に出回っていない資材を確保できる」「作業員たちの士気が高い」など、弱みとしては「資材ストックが不足しやすい」「設計プランを現場で共有する環境が整っていない」などです。このように、強み・弱みを明確な言葉にして整理します。
縦軸は自社自身の外部環境におけるプラス・マイナス要素です。具体的には、市場や社会情勢の変化といった、自社ではどうすることもできない外的要因から、自社が受ける影響をプラス・マイナスで判別したものです。
プラス要素O(機会)はたとえば、市場で特定の建設質材の価格低下が起き、安く仕入れられるようになっているなどです。また社会環境の変化と併せて、「リフォーム案件が増えた」「中小の競合他社が減っている」なども機会の代表的な事項となるでしょう。
マイナス要素T(脅威)としては、「新築案件が減った」「大手が大規模に参入してきた」といった例が挙げられるでしょう。
注意点は、市場・社会変動そのものをプラス・マイナスに振り分けるのではなく、特定の変動によって「自社が被る影響」を振り分けることです。たとえば「若者の価値観の変化」という1つの同じ変動について、プラスとしては「古民家リフォーム案件の増加」、マイナスとしては「新築案件の減少」という逆の影響が起き得ます。そうしたあくまで「自社への影響」を見極め、機会と脅威に振り分けてください。
(なお、こうした外部環境にさらに詳しいマクロ環境として分析していくフレームワークに、PEST分析と呼ばれる方法も存在します。)
建設業界のSWOT分析が持つ大きな特徴は、現場監督の声を収集して分析に役立てられることです。特に自社内部の強み・弱みを明確化する際には、これによってより現実に即した分析結果が期待できます。
このように4項目を整理したら、強みを機会につなげる方針でマーケティング戦略を立てましょう。図では、「S×O」にあたります。たとえば「若者の間で、リフォームのニーズが増えている」という機会に、「市場にあまり出ていない新規素材・デザインを活かした、低コスト施工ができる」という強みをかけ合わせます。
このようにSWOTを用いれば、「自社内部の強みと、外部環境の機会とが合致する箇所」を整理して見つけられるため、より具体的・効果的なマーケティング戦略を立てていけます。
なお、マーケティングを含めた経営方針として、「脅威を回避するためには、どう強みを活かせばよいか」(S×T)、「機会を損なわないために、弱みをどう低減するか」(W×O)、「弱みと脅威が重なっている現状で、どう損失を抑えるか」(W×T)などを、自社と社会の状況に応じて適宜立てていきます。これらを適宜マーケティング施策と連動させ、営業全体の方針を立てるとよいでしょう。
ターゲットを絞り込む
3CやSWOT分析によって、自社のアピールすべき強みが客観的に把握できたら、「それを誰に売り込むべきか」という、明確なターゲット像を導きます。
一般にターゲットを絞り込むときに重要なのは、顧客の属性(年齢・性別・職業上の地位・年収など)や、顧客の置かれている環境を細かく設定して、ピンポイントで顧客像を固めることです。「どんなことに困っている人なら、自社に依頼したいと感じるか」を、客観的に見定めましょう。
決して「自社では今これを売り出したいから、こういう顧客に見てもらいたい」という主観からのみでは判断しないようにすることが大事です。3CやSWOT分析によって俯瞰した市場動向や顧客層を鑑みつつ、自社の強みに魅力を感じてくれるターゲットを冷静に絞り込みます。
マーケティングの媒体を選定しよう!
自社の強みとターゲットが明確になったら、媒体を決めていきましょう。今日では年齢に関わらず多くの人がインターネットによる情報検索をおこなうため、基本的にはWebマーケティングをメインに選定します。しかし、Webマーケティングにもさまざまな種類があり、それぞれ有効な状況も異なります。
ここからは、代表的なWebマーケティングの媒体を4つと、そのほかの媒体を2つ紹介します。自社の状況やターゲットに合わせて、適切な媒体を選択します。
(1)自社サイトの運営
今日の企業にとって、自社サイトをしっかりと運営することは非常に重要です。これはWebマーケティング戦略の前提となる、基本的な企業活動です。以下で紹介するSEO対策と併せて、安心・堅実な印象を顧客へ与えられるように、しっかりとしたサイトを構築しましょう。
直接的なメリットとして、「施工内容を、イメージを交えながら具体的に提示する」「見積事例や料金表を掲載する」などによって、施工前に顧客が持つ不安を取り除ける点があります。また、施工内容・料金プランを変更した際は同時にWebサイトもアップデートし、顧客とのトラブルを避けることが重要です。
SEO対策をおこなう
サイトが検索結果上位にヒットしやすくなるよう対策を施しましょう。検索結果上位にヒットすればするほど、サイトへのアクセス数は増大し、契約にもつながりやすくなります。こうした対策は、一般にSEO対策と呼ばれます。
「顧客がどんなことに関心を持ち、どのようなキーワードで検索するか」を予測し、それに応えられる内容をサイトに作成しておくとよいでしょう。たとえば「低コストでの簡単なリフォーム」を望むターゲットなら、「リフォーム 相場 安く」などのキーワードで検索すると予測されます。これらで検索した人の疑問を解消するような情報を掲載するなどして、自社サイトの有用性や価値を高めていくことが重要です。検索者側の目線で、有用度や信頼度の高いサイトを作ることで、自然と上位表示されるようになるからです。
SEO対策によって、アクセス数が多く有用度の高いサイトを維持できれば、結果として顧客へも高い信頼性を与えられます。当然、それだけ受注へつながる確度も高くなるでしょう。
(2)リスティング広告
リスティング広告とは、検索エンジンの検索結果画面に連動して最上部にテキストで表示される広告のことです。大手検索エンジンはGoogleとYahoo! Japanがありますが、どちらの検索結果画面でも、まずは「広告」と明記されたリンク(=リスティング広告)がトップに表示され、その下に通常の検索結果が表示されます。
使用するには、「Google 広告」「Yahoo!広告」からそれぞれキーワードを設定し自社のリスティング広告を入稿してください。これにより、キーワードの検索結果画面に自社サイトへのリンク(=リスティング広告)が掲載されるようになります。
先述のSEO対策とは異なり、かけた費用分だけ確実に広告として機能する点がメリットです。検索されたキーワードについて、競合他社がどんなにSEO対策を徹底していても、自社のリスティング広告のほうが上位に表示されます。特定のキャンペーンや新プランなどを宣伝したい場合にも、予算に応じて積極的に利用するとよいでしょう。
魅力的なランディングページを構える
広告バナーをクリックした先にある、「特定の商品やサービスなどが1ページで紹介されているWebページ」のことをランディングページと呼びます。1ページとして説明が完結するような、明確な商品やサービスを宣伝したい場合に非常に有効な手段です。
上記のリスティング広告のリンク先として作成するとよいでしょう。その際は、リスティング広告に掲載したキーワードやサービスについて、詳しく・わかりやすく説明するページになっていることが肝心です。
ランディングページ内には「問い合わせ」「資料請求」フォームを作っておくことも有効です。そこに連絡先などを入力してもらえれば見込み顧客が獲得できます。もちろん契約申込みページへのリンク設置も有効です。
(3)SNS運営
比較的若い世代をメインターゲットとしている場合は、自社のSNSアカウントを適切に運営することで、高いマーケティング効果を得られるでしょう。
たとえば、自社の強みが「天然素材にこだわっている」「SDGsに配慮した施工環境を整えている」など、今日の話題になりやすい要素を含んでいるなら、SNSで積極的に発信していきましょう。それらの要素はSNSを日常的に用いている顧客層の嗜好に合致しやすいと考えられます。企業によるSNSのマーケティング成功事例も多数あるので参考にするとよいでしょう。
(4)チラシ
印刷したチラシをポストに入れるという昔ながらの手法です。若者にターゲットを絞っている場合は高い効果は望めませんが、「ふだんWebをあまり利用しない層」をターゲットとしているなら、一定の効果が期待できるかもしれません。
ただし、チラシは「誰に何を伝えたいか」が一目でわかるように見やすくシンプルであることが重要です。また、施工事例などを空撮した写真を用いると、強いインパクトを与えられるでしょう。ドローンの普及によって、近年ではこうした空撮もおこなえるようになってきているので、積極的に利用するとよいでしょう。
(5)イベントの開催
たとえば「無料リフォーム相談会」「外壁塗装の種類や選び方相談会」などのイベントを定期的におこなうことで、新規顧客を増やすことにつながります。自社サイトやSNS、リスティング広告なども活用し、こうしたイベント自体を宣伝するとよいでしょう。逆に、こうしたイベントへの参加者に、自社のSNSアカウントを紹介してフォローしてもらうなど、ほかのマーケティング施策と組み合わせることで効果を高める工夫も必要です。
また、たとえば「ドローンを用いたリアルタイム屋根点検」などを無料イベントとしておこなえば、関心を持ってもらえるかもしれません。自宅の屋根という普段ほとんど目にすることのない箇所について、空撮映像を通して丁寧に点検・説明することで、自社への信頼を高めてもらえるでしょう。「調査時間を節約しつつ、より安全な点検ができる」というメリットも押し出すと、さらに効果的です。
まとめ
建設業者は長年問題になっている重層下請構造から抜け出し、競合他社との差別化を図るためにもマーケティングに取り組まなくてはなりません。まずは、3C分析やSWOT分析を通して、自社の強みとターゲットを見極め、最適なマーケティングを実行していきましょう。
現代の建設業界では、マーケティングにおいてもドローン撮影といった利用法で導入が進んでいますが、本来ドローンは屋根や外壁の確認に効果を発揮します。作業員が高所に登って点検する必要がなく、安全性は格段にアップするでしょう。操作も簡単で早くおこなえ、点検映像はリアルタイムに顧客と共有可能です。本記事の内容を参考にドローン導入を検討してみてはいかがでしょうか。